さて手術だ!

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 さて。
 とうとう明日は手術だという前夜、12歳の娘に『キモイ』と言われて生き延びることを決意するほかにも、やることがありました。

 まず絶食。これは前の夜からでOKで、たいした絶食ではありませんが。6時間前からは水分も禁止されます。

 麻酔の影響で嘔吐が起きることがあり、気道が詰まったりすると命が危ないからでしょう。消化関連の臓器みたいに何日も絶食したり、浣腸をしたり、といったことは必要ありませんので、ぜんぜんらーくちんです。

 でも、食い意地のはっているあたしは、病院の中にあるベンディング・マシーンのコーヒーを味見したり、売店のクッキーを試したりせにゃらん、のですね。
 一応、それらのことはしました。
 地下にアイスクリームの自動販売機もあることを発見。
 絶食直前に食べるのは『チョコミントアイスクリーム』に決めまして、そうしました。

 で。朝一番の手術っては、どうやら朝8時台に”お迎えが来る”らしい。
 夫に電話をして、そのことを知らせます。

「なに?そんなに早いのか?手術室に入るときに間に合うかな?」
「間に合わなかったら、まあそれはそのときってことで。出てきた時に間に合えばいいでしょう」
「そうはいかないだろう。顔の見納めかもしれないだろう」
縁起でもないこと言ってくれるわねー」
何があるかはわかんないんだから。熱かなんか出て手術延期になるとか、麻酔がうまくいかないとか。家族はいないとまずいだろう」
「そっか。では早起きしてください。よろしく」
「親父とお袋も行くって」
「ぎょえー。ものものしい。朝早いのに」
「年寄りには苦にはならんらしい」
「そんなこというとうちの母も来ちゃうよ」

 結局母も来ちゃいました。
 朝眠くてどよーん、とした状態のときに、母親と義母と義父、夫、が次々と到着。

 で。あっという間にその時間が来ます。
 あたしはどよーんと寝ているそのベッドごと、がらがらごとごとと運ばれていきました。

 ベッドに寝かされていますから、見えるのは天井だけ。その天井が移動につれて流れていきます。手術室の自動ドアから中は、その天井の色がちょっと変わる。
『ベン・ケイシー』
 あたしの頭にいきなりふるーいテレビドラマが思い浮かびます。お医者さんのドラマね。(わかんない人は若い)

 看護婦さんが「全身麻酔になりますので、気道を確保するためにのどに管を通します。気をつけてやりますが、食道が傷ついたり、口の中が傷ついたりして、管を抜いた後で痛むことがあります」と説明してくれます。
 
「それはいつ入れるのですか?」
「点滴で眠くなるお薬を入れて、眠ってしまってからです。目覚めたときにはもう取ってあります

 そうか。知らないうちに管入れて、知らないうちに抜き去るけど、目覚めた時にのどや口の中が痛いとびっくりするから、意識があるうちに説明してくれるのだな、とあたしは理解しました。
 のどにどんな管を入れるのかは知っています。
 『ER』で見たことあるから。
 あたしゃテレビドラマの見過ぎかも。

 でも、これはテレビドラマじゃないのでした。
 あたしは手術室にいました。点滴のせいで、もう意識は朦朧としていて、ドラマというより、夢を見ているみたいでしたが。

つづく。