生き残った方のやる気について(おっぱい建設中5)

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 サイズを測って写真を撮った日、執刀をする形成の先生が、シリコンバッグもみせてくれて、「この、X型というのになります」と言いました。

 上の方が薄くて、下に向かって厚みがあるやつ。
 いわゆる釣鐘型のおっぱいです。

 おっぱいを測るときは、先生がモノサシを持っていて、家具売り場の人みたいにW(幅)いくつ、D(奥行き)いくつ、直径いくつ、などと言うのを、スタッフがカルテに記入していました。

 こういう数字と、見た目によって、いくつかの出来合いのシリコンバッグの中から、近い形を選ぶ、ということになっているわけですね。

「いくつか形の種類があるんですね?」ときいてみます。
 あたしゃできたら全部の種類を見てみたいんだが・・・。
 先生は合いそうなやつを引き出しから出してくるだけなので、見えません。

 このクリニックではコヒーシブシリコンという、”一番高級でいいとされる”製品だけを扱っています。
 ぜひ全部の形、全部のサイズを見てみたい!
 が、しかし。

 上半身裸でモノサシあてられたりしているもんで、いまいち持ち前の性格のしつこさが発揮できないのが歯がゆいです。  医者はヒマじゃないし。
 あきらめます。

 先生は「形はいくつかあります。こっちに比べると、X型は高さがあるでしょう」と、言って、もう一つだけ、違う形のやつを見せてくれました。
 それは、お椀か深いお皿を伏せたような形で、上側と下側の厚みがあまり変わらないタイプのものでした。

 うーん。確かに、X型とやらのほうが見覚えとなじみのある形。前に向かってとんがっている形ね。

 ただし、いにしえのかつてのあたしの胸だわ、ありゃ。
 今はあんなに元気じゃないのよ。形がさ。

 「今、いまいちやる気のない胸なんですけど。特にホルモンはじまってから、とみに下向き傾向なんですけど」
 通じるかな?と思いながら微妙な表現で言ってみる。

「ああ、垂れちゃっているからね」
 先生の表現はモロ。

「どうしても、そっくりにはできないのよ。健側に比べるとぷりっとした感じになります。それはあらかじめ言っておきます。しょうがないわね。こっちをいじる気がないのなら」

 いじる気?
 つまり健康なお乳の方の形を、再建した方に合わせて変えちゃう、ということですね?さらにすごいお金かけて。
 なんかそれはヘンというかなんというか。

 「こういうおっぱいはオーダーして作らないとできませんね」となおもしつこく言うと、先生はまじめに、「今現在はアメリカでもオーダーシステムはないんですよね」と応えます。

 形成外科医としては、健康な側もいじって、ばーんときれいな胸にしたい!という気持ちがあるのでしょうか?
 それともいい具合に垂れた、自然なおっぱいをリアルに作ってみたい、という”野心”などあったりして?

 でも、考えてみたら、今左右対称に作ってもらったって、いずれは老化によって差が出てくるんだよね。
 作った胸は、老化しないんだもん

 ある程度アンバランスになることは、覚悟した上で再建を決心していますから、あたしもこの辺で黙ります。

  あたしの頭の中に、「それは老後の楽しみにしておこう」という声がこだまします。
 まず貯金をしないことには。
 ホルモン治療費もまだまだかかるし。

 先生はさらに、「今の時点ではみなさんあまりおっしゃらないのですが、できあがってから、ここにふくらみがない、と不満を述べられる方がいます」と説明をはじめました。
 ”ここ”というのは、鎖骨のすぐ下です。
「手術ですべての乳腺を切り取っていますから、ここがへこんでしまうのは仕方がないんです」

 シリコンは、鎖骨のすぐ下のあばら骨が浮きそうな部分はカヴァーしないということです。

 まとめると、これから再建される胸は、あたしのかつての胸よりもっと若い時の、ある種懐かしい胸のように釣鐘型に前にプリッと張り出しており、水のバッグよりはもちろん柔らかいが、脂肪よりは少し固めで、鎖骨の下は痩せたままでふっくらはせず、しかしながら一応復活するのである、ということですね。