【イレズミに際して忘れていたけど】

 いまいち色白というか迷彩柄っぽいあたしの乳首に修正のイレズミを加える際、麻酔のための注射が痛いって話のつづき。

 イレズミは結果的に両側やってもらいました。再建したほうをやったあとに、やっぱり片側も白い部分が気になるからやってください、と頼んだのです。
 そしたらイレズミ担当者(ナースです)が「痛いですよ」と宣言するのです。こういうことは珍しい。あんまり脅かしたりはしないものなのです。だけどほんとに痛いから言っておかねばならないのだ、という面持ちです。

 痛みに関して、健側、つまり乳ガンになっていない側、あたしの場合は右側ですが、こっちは作った方の胸みたいなわけにはいかないのですね。
 麻酔というのは言うまでもなく「痛くしない」ためにするのです。だけど、麻酔をする前は神経が麻痺してませんから、もう、これが痛い。注射針が痛いのよ。ちくん、というよりはぢくーん、みたいな感じで響きました。うぐぐぐぐ。と、暴れてしまいたいぐらい。

 だって、乳首なんだもんね。考えてみたら当たり前だわよね。背中や腕やお尻より、何倍も敏感な皮膚じゃない?
 そのぢくーん、というのを、乳輪のまわりに何カ所かやりませんと、イレズミなんてモンはできないわけです。麻酔はすぐ効いてくれるけどもね。最初の注射は痛い。

 「うわー、痛いですね」と、思わずあたしは、イレズミ担当ナースに言いました。
 「ええ。痛いんです」と彼女は気の毒そうに言いました。いや、ホントに当たり前なんだけど。

 あ、でもね、あたしはそのことうっかり忘れていたのですよ。というのは、手術をして乳腺を取ってしまった方というのは、たとえそこに乳首らしきものが再建されていたとしても、もはやそんなに感じたりしないのです。だから、今目の前で麻酔注射して、入れ墨入れてもらったにも関わらず、その同じことをもう片っぽにやったら痛さが違うってことを忘れてたのね。

 逆に言えばそのぐらい、作った乳房というのは鈍感です。はっきり言いましょう。痛くないだけではないです。全摘をしますと、いわゆる乳首の性感というものは、ほとんど死んでしまうのです。
 このことははっきり指摘しておかないと、読むだけでは考えが及ばないかもしれません。その意味でも、乳房は文字通り「失われる」のです。だからこそ膨らみぐらい取り戻したいってのはゼータクでも何でもないじゃん、何で国民健康保険効かないんだろう、っていう話はまた別の話なんで置いておきますが。

 感覚についてですが、乳腺と共に乳首のさらに、手術をして切ったあとにまたシリコンバッグを入れたり、それをまた取り出して位置をなおしたりしていますから、あたしの左胸の皮膚の神経は、まだ完全には復活していないのです。暑さ冷たさかゆさ痛さ、くすぐったさなど、なにをとっても感覚がうっすらとしかないわけです。
 これらは徐々に戻ると聞かされていますし、過去のエントリーにもそのことは書いているけど、とにかくそれもまだ。
 しかもこれが100パーセント戻ったとしても、要するに並の皮膚並み(何じゃそりゃ?)になるだけ。もはや乳首みたいな特別な敏感さは戻って来ないのです。

 いや、知らないけどね。戻るっていう人もいるかもしれないけど。腕一本切り落としても、失われた腕の皮膚がかゆいことがあるって言う人があるぐらいだから、人間の感覚にはまだ神秘的な、理屈ではわかってないことがあるかもしれません。でも、あたしにはとりあえずそれって無理そう。

 で。でも失われてない方の乳首。そっちは相変わらず乳首でした。つまりその、すばらしく敏感で、要するに注射針なんか刺したら痛かったっていう話です。
 一瞬でも忘れたりして、ごめんよ。右乳首。

 つづく。