ホルモン治療を一旦やめてみようかと

 おひさしぶりでございます。

 ニュースがあります。今、ホルモン剤を飲んでおりません。
 つまり、5年ぶりに無治療状態!というのを味わっているところですの。朝起きて、薬をなにものまない。一日中のまない。すがすがしいものです。これで放射能さえなかったらすがすがしさも100万倍だろうけど、まあそれはともかく、無治療生活です。

 あたしは左胸全摘手術後、EC4クールという睾丸じゃなくて紅顔じゃなくて抗癌剤治療を受けました。(うーん。ワープロソフトの漢字変換すらがもはやガンから遠のいているー。)

 その後タモキシフェン(ノルバデックスと、途中からはジェネリックのタスオミン)を5年、服用したのです。あたしのガンは女性ホルモン感受性のある、ホルモンを食べて大きくなるタイプだったので、ガンに再発のチャンスを与えないようにエストロゲンを阻害しておりました。大変典型的なパターンの治療です。

 で。5年ちょっと前の2006年、のみ始める際、確か主治医はあたしに言ったと思います。
 「ホルモン治療は5年から10年やります。5年経って、閉経が確実だということになったら、違う種類の薬もあります。そういうものにするかもしれません」
 それであたしは「じゅ、じゅ、十年ですってええええ?」と、少し落ち込みました。だって長いよー。10年は。
 その後すぐに、「5年でやめる人と10年続ける人とでは、再発率が有為に違うというデータが出た」と言われました。10年やったほうが成績がいい。だからこの時すでにほぼ10年コース決定か?という雰囲気でした。

 いわば"不自然な"体環境が10年続くんだから、気が重くなります。
 実際重くなったのは気だけじゃございませんでした。体がだーんだん重くなってゆきました。つまりね、ホルモン剤飲み始めたらじわじわ太りはじめたのですね。だいたい1年に3キロ~4キロ増えたんだけど、そのあたりの体の変化については稿を改めて書きます。

 とにかく、のみはじめた時は「5年で各種の事情でやめる人もいるし」、みたいな話をあいまいにきいておりました。
 それで、やっと5年経った、というわけ。正確には5年と2ヶ月。その2ヶ月がどうしてプラスされたかもあとで書きましょう。
 そのあいだ再発の疑いもなく、特に大きな体の不調もなく、(小さい不調は数々あれど)順調に治療が経過したのですわ。

 さてそれで先日、主治医と「今後をどうするか?」という話し合いをしました。震災のあとでした。これでやめるか、さらに5年続けるかって話をする日です。
 主治医はききました。
 「生理はもどっていないよね?」
 「戻ってません」
 実際あたしの生理は抗癌剤を打っている間に止まり、それが終わっても戻りませんでした。何だか体がうんと打撃を受けたような感じがしました。たとえはなんですけど、10年ぐらいいっぺんに老けたかも?みたいな感覚?

 「このケースだとフェマーラという薬を使います」
 「名前はきいたことがあります。副作用はどうですか?」
 「そんなにないと思います」
 副作用については、実際にのんでいる患者たちは色々言いたいことがあるのですが、関連が証明されない不調などは副作用としてカウントされません。
 
 「10年のむと、どのぐらい成績があがるものなのですか?何パーセントも生存率が上がるのですか?」
 「うーん」
 主治医ははっきりした数字は言いませんでした。数字上はわずか上がる、というだけであっても、できたら10年やったほうがいい、という理由があるようでした。少し細かく話を聴くことにしました。

 まず、フェマーラをプラス5年のんだ場合に、ノルバデックス5年だけでやめたグループより「成績がよい」、という意味の中には、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)も含まれているのだそうです。
 ただ単に死亡率が低いといっても、どんなふうにして生きているのかってのは、あたしのような患者には大変関心が高い部分です。生きているだけじゃなくて、ちゃんと普通に生活している率として、成績がよい、という意味だそうです。
 「それから、ノルバデックスを5年飲んでいた後に、閉経していて、フェマーラに移行したケースに、一番効果があることがわかっています。つまり条件はぴったりなんだよね」主治医は言いました。
 「ああ、なるほど」

 乳ガンの治療というのはいろんな要素を考え合わせて決められるのです。若いか、そうでないか、ことに閉経しているかしていないか。手術の際に、どのぐらい進行していたか、全摘か部分切除か。切ったものの悪性度はどのぐらいだったか。
 その他にも既往症があればまた違うでしょう。ことに、ホルモンの阻害が引き金でうつ病になったり、それが再発した場合などは、ホルモン治療が続けられないこともあるとききます。
 
 あたしの場合、問題なのは、ガンの悪性度が3で、けっこう高い、ということでした。全摘出(乳房を全部切り取ること)をしたのに、さらに抗癌剤治療を受けたのも、このことのせいです。つまり、悪性度が高いガンは、その分「再発を起こす能力が高い。転移をする力も強い可能性がある」ということなのですね。
 だから、おっぱいを切ったのちに、抗癌剤で全身を叩いておく。既に全身に散っているかもしれないガンの小さいやつを念のためやっつけておく必要があったわけです。

 「あー、再発したらやっかいですね」あたしは言いました。他の臓器に転移したら、確実に命を縮めます。
 再発は、同じ性質のガンが再び活動を始めるってことなので、前の時と同じ性質を持っています。あたしの場合なら、大きくなる速度はそんなに速くないけど、悪性度は高い、ということです。
 
 だからといって、薬をのまなければ必ず再発するとか、再発リスクが高くなるとも限らないわけで。そのへんが悩みどころです。あくまで念のためなのです。
 念のためのメリットと、被るデメリットを天秤にかけて、自分で決めないとなりません。

 デメリットのうち、特に副作用はいやーなもんです。今後心配なのは骨密度が下がることです。
 「だから、普通に暮らせるというよりも、骨密度を下げないように、うんと頑張らないとなりません。骨折などしたらQOLが下がりますからね」と言われました。頑張るって・・・・ああ運動とか食事とか、太らないようにして筋肉つけてホネにも適度な負荷をかけ・・・・とかってことか。

 「太ってしまっている人なんか、骨折したら大変でしょうね」
 「大変です。肥満といっても、アメリカではケタがちがいますから、一度折ったらヒドイです」
 「データのほとんどはアメリカでわかったことってことですよね?」
 「そうです。この5年の間にも色々わかってきています。追跡調査をしているので。それで、そういう副作用による骨折なども含めたQOLを総合しても、成績がいいということなんです」
 
 ううううううう。
 これはもう絶対に10年コースにしなさいよ的な展開です。
 できたら飲みたくないんだけど・・・・・もうイヤっていうか・・・・・あたしはあたし的に副作用の「自覚」はあるんで。たとえそれがデータにならないものでも・・・・。
 しかし、再発はもちろんイヤです。一番怖いのはとにかく再発・転移なのです。

 「フェマーラは高いんですか?」あたしはさらにききました。
 「ああ、高いです。薬価はノルバデックスの3倍ぐらいかもしれません」
 「え?それはかなりな。ジェネリックはないんですか?」
 「まだないです。そうですね。それが問題で、続けられない人もいますが・・・・」

 さあて。どうするか。3倍となると、ちょっと夫に相談するべきかも。

 それで、この時、主治医は折衷案を出してくれたのでした。
 つまり、残っているノルバデックスをのみきったら、次の診察日まで何ものまないで過ごしてみて、その間にあと5年やるかどうか考える、という・・・・。

 「あ、そうします。のまないでいて、副作用が消えるかどうかみてみたいので」
 あたしはその案に飛びつきました。

 それで、今無治療なの。
 次の診察日は秋、11月です。
 で。肝心の体調のほうですが・・・・。

 つづく。