再建にこだわるあたし10

●けっこう孤独なおっぱい

 すぐに夫に病理検査の結果報告をしました。
残念ながら再手術決定、ということです。
 形成の先生にも相談をしてから、全摘して再建するか、更なる追加切除をしても温存をして、放射線をかける道をとるか、決める、という話をしました。

 「放射線をかけたらほんとにほんとに再建が無理なのかどうか、形成の先生にももう一度確かめてくるよ
ほんとにもっとゆっくりと考えられれば一番いいのに、と思いながらあたしは言いました。

 時は年末。次の手術は一月の終わり。手術日までの間にはお正月イベントがあるし、何かと気がまぎれるだろうな、という時期でした。
 
 あたしは新しいセーターを買って着ていました。
 比較的ぴったりしたセーターで、胸のラインが出る、みたいなのがあたしの好みです。

 夫はふいにききました。

「それ、切ったほうは何か詰め物をしているの?」
してない
「笑っちゃうな。ぜんぜんわからないもの」
「ほんと。言わなければ誰も病気だとも思わない。裸になればわかるけどね。だけどどうせ誰も見てないって言うんでしょう」 

 夫にはこの時にはもうこれが本人だけの問題なんだ、ということがわかっていました。
 だから、何であたしがそんなに形がどうのこうの言うのか、理解できなかったとしても、何も言うまい、本人に任せよう、という態度でいてくれました。

 人の目を気にしてるんではないってことです。
 パートナーに対して”女性としての自信がなくなる”とか、そういうのですらない。だってあたしの男は気にしてないんだから
 
 こだわっているのはあたし自身なのであって、そんなことは世の中にとっては重大なことではないのです。
 そんなことより生きてることが大事だし、病気を抱えていてもきちんと仕事ができて家族とつきあえて、自分のやりたいことが続けられるかどうかが大事。

 あたしのことを好きな人たちは、あたしのおっぱいに頓着するわけではない、と夫は言いました。
 おっぱいがないことで脅かされることなど何もないだろう、という意味です。

 だけど、あたしの自意識や自己イメージが脅かされる
 毎日お風呂にはいって、あああ、やだ!病気のせいで変形しちゃって!って思うのはあたしなんだもん。あたしがこんなのは嫌だ、と思ったら嫌なんだから。

 人が気がつかない程度だとか、下着や水着をつけたら外からはわからないとか、服を着てたらぜんぜんわかんないんだからどうでもいいでしょうってことにはならないのです。  
 誰も見てなくたって、あたしが見てる。毎日このおっぱいで暮らすのはあたしです。

 おっぱい再建にこだわる気持ちというのは、このようにけっこう孤独なものでした。
 相当孤独だよな。
 こんなもんは基本的に孤独なものなのだ、とあたしはあきらめました。
 同じ女性だってわかってくれるとは限らないのです。

 子供はもう12歳で、この先出産や授乳の可能性もゼロですから、その点でも乳腺の温存には意味はなくなっています。
 美容問題だけじゃん。しかも自分用の美容ね。別にあたし女優とかでもないし。

 そしたら娘が言いました。
「ママそんなにおっぱいのふくらみのことを言うより、その下にあるおなかのふくらみのほうを何とかしたほうがいいんじゃない?」

 なかなか鋭いことを言う。美容にこだわるならそれなりのレベルを見せろと言うことだな。

 しかしあたしは「うるしゃい!」とこたえました。「おなかが出てるからっておっぱいのことはどうでもいいと言うことにはならないのじゃ!」
 デブとかブスはおっぱいにこだわる権利がないとでもいうのか?そんなわけなかろう!

 「もともとのおっぱいが立派だったものね」と言って慰めてくれる人もいたけど、あたしは「大きさ関係ないだろう!どんな人の胸だって、その人にとっては大切だろう!」と思っていました。

 大義名分は要らない。お金がかかることに関しても堂々としていよう。
 あたしはこの、あたししか見てない胸の美容に関してぎゃーぎゃーうるさく言っていくんだ、と決心しました
 それが孤独を覚悟するってことです。

 そう心に決めた陰で、いろんなことを想像していました。

 きっと気が弱くて、こんな風にいえない患者もいるんだろうな
 もうトシなんだから、おっぱいなんかどうでもいいでしょう、とか、心無いことを言われて黙っちゃう人もいるんだろうな
 パートナーになんか失礼なこと言われて傷ついたって話もあったな
 結婚しててラッキーだったわね、未婚者だったらもっと深刻よね、とか、同性の人言われたりさ。(再婚するかも知れないだろう!それにおっぱいで結婚決まるわけじゃないだろう!)

 専業主婦で、自分の貯金があんまりなかったら、再建にかかるお金のことを思って「贅沢だ」と、あきらめてしまう人もいるのかもしれない。(贅沢なんかじゃないのに。保険がきかないことがおかしいのに!

 自分が再建について語るたびに、あたしはこれが言えない人のことを想像して涙が出そうになりました。