●再建への幻想 温存への幻想
さて。ガンの取り残しがあって、再手術が必要なことが確実になったので、次の手術日を予約することになりました。
すぐにはベッドがあきませんから、1ヶ月以上先になります。
あたしはこの時点で、まだ本当に全摘に踏み切るのかどうか、はっきりと決心がついていませんでした。
それは、主治医が「今の胸だって、再建と同じぐらいの出来だよ!」と言ったからです。
そこまで言うか・・・と、あたしは絶句しました。
再建で作られる胸は、”へたくそな美大生がうっかり描いたデッサンみたいな胸”以下?ってこと?同程度ってこと?
この表現はまあ、あたし独自のものだけどさ、これより悪くなるとしたらわりに合わないでしょう。
再建には100万円ぐらいはかかるのです。
主治医の言いたいことはこういうことだったと思います。
再建でアンバランスが解消するわけではない。再建した胸は年もとらない(時間が経っても垂れない)から、不釣合いはかえってだんだん進んでくる。今のアンバランスを解消しようとして、別のアンバランスを抱えるだけなのだから、幻想を持ってはいけない。
彼は強い調子でいいました。
「全摘しても、再発のリスクはゼロにはならない」
「でも、3パーセントぐらいになるんですよね?」あたしは確かめました。(ゼロにならない、というのは皮膚への再発のケースがあるからです)
「温存で放射線をかけても6パーセントまで減る。そんなに大きな違いではないでしょう」と、彼は言いました。
6パーセントと3パーセントを”倍”違う、とする見方もあるな、と思いながら、一応同意します。
「でも、先生。放射線をかけなくて済むメリットがあるでしょう。週に5日も病院に通うのは大変です」
「大変だけど、それも1ヶ月だけだよね」
約30回だから、正確には1ヶ月以上かかるんだけど、ドクターはそういう言い方をしました。
そうよね。それに立ち向かう人にしてみたら、「30回も通う」とは考えない。「たった30回でいいんだ」「それで終わるんだ」と考えるでしょう。
「いいんだけどね。自分で決めることだから。だけど切ってしまったらもう戻せない」ドクターはそれまで何度も発したセリフをもう一度繰り返しました。
あたしは「温存とか、再建とか、言葉のイメージはいいけど、両方ともアンバランスになることには変わりない、ということですよね?言葉に幻想を持ってはいけないってことですよね?」と言いました。
ドクターは「そうです。言葉が幻想を呼ぶ・・・」彼も考え込んでいる様子でした。
結局あたしは、手術日までの間に考えることにしました。
「形成の先生に意見を伺ってもいいですか?」
「いいですよ。紹介状を書きます。形成では考え方がまったく違うから、形成を勧める方向で話をすると思いますが」
紹介状はすぐその場で書いてくれました。
あたしは帰りに病院の廊下ですぐ形成のクリニックに電話をして予約をとりました。
つづく。