再建にこだわるあたし13

●外科vs形成外科?

 ナーバスになると、自分のナーバスさに自家中毒するというか、つるっと足をすくわれてあとはあっぷあっぷ溺れるみたいになります。
 あたしはそれがとにかく嫌いなんですわ。
 
 努めて「あたしは冷静なのよ。小学校の頃からよくそう言われるのよ」などとわけのわからない人の意見に頼って自分を立ち直らせようとします。

 見かけはそんな風に見えなかったと思うけどね。

 形成のドクターは女性です。
「女性だから話しやすい!」と自己暗示をかけてから、面談に臨みます。

 「現時点では、全摘、再建をするか、温存のままいくか、はっきり決まっていないのですね?」と確認されます。
「はい。お話をきいてから、決めます」と答えます。

 それから迷いの核心である”ぶっちゃけた話、美容的に考えてどっちがマシなのか”という話に入ります。

 あたしは言いました。
「主治医は、今の温存した胸でも、再建をしたのと変わらないぐらいだって言うんです」
「ほお」ドクターの目の色が変わります。「そこまで言う?

 この「そこまで言う?」はこれを言われたときにあたしの頭に鳴り響いた台詞とまったく同じなので、ちょっと笑いそうになります。

「しこりの位置は上のほうで・・・4分の1以上も切ったのですが、今の時点では乳首の位置もずれてはいません」
「ずれてませんか。見せてもらいましょう

 形成のドクターは、なんと言うか、”そんなに自信があるなら見せてもらおうじゃないの”、みたいな、挑みかかるような鋭いまなざしで「そこで上半身服を脱いでください」と言いました。
 自信あってもなくても診察だから見せるんだけど。

 一気に緊張が押し寄せます。

 何なの?これは?
 ああ、そうか。これは勝負なのね。
 乳腺外科と形成医の患者の満足をめぐる勝負なんだ。
 こうやってそれぞれ技術を磨いて、医者は患者たちを助けるんだわ。

 あたしの頭の中に『料理の鉄人』とかの勝負の時にかかる効果音が鳴り響きます。
 ダン、ダダダダン、みたいに。(ほんとバカ)

 ドクターはあたしの胸を見て、「ああ、温存にしてはきれいにできていますね」と言いました。
 
 おお、いい勝負なのか。これは?やっぱりこれはずいぶんうまく出来ているんだ。
 形成医も認める上手にできた”作品”なのね。

 温存の胸をいっぱい見たことがあるわけではないあたしは、そうやってその事実を理解します。

 それにしても、”温存にしては”というのは、いかにも形成医から見たときのセリフです。
 温存に強くこだわる患者にしたら、自分の胸であることが何より大事でしょう。
 だけど、形成医は徹底的に「きれいでなかったら意味がない」「いかにきれいに仕上げるか」という哲学にのっとって考えるのです。

 だからそういう表現になる。
 面白いものだと思います。

 そして、あたしもそっち寄りの考え方をする患者だからこそ、クリニックに説明を受けに来ているのですね。

 「でも、甘いな。これで済むわけではないでしょう」
 ドクターは話しはじめました。

 甘い。甘いのか。
 「甘い」という表現が効果音とともに頭を駆け巡ります。

 「もう一度切らなければならないんでしょう。それにさらに放射線が加わる。放射線の影響を甘く見てはいけません

 勝負のモードで考えると、これで形成に勝てると思ったら大間違いよ、といった感じです。

 あたしは、放射線の皮膚障害について、さまざま質問しました。
 放射線をかけた後の再建が大変難しいということをはっきりと書いてある本が身近になかったこと、照射した後でも再建は出来るといった医者がいたことなども話しました。

 ドクターは「私の著書には書いてありますよ」といった後、自分は17年前から再建手術をしていて、年間何百という数をこなしていること、シリコンだけに特化して手がけてきたことを話しました。
 そして、「どちらが現状を正しく把握しているでしょうね?」とあたしに問いました。

 放射線をかけたあとでもできる、という医者が、どのくらいの数、成功例を持ってそれを言っているのか、ということです。

 「特に聖路加はがっちりと放射線をかけます」
 
 そのことは聞いていました。
 がっちりかけることは必要があってやっていることでもあると。

 放射線をかけた後、シリコンのインプラントで再建をする人がゼロというわけではありません。
 だけど「大変難しいし、不可能なことがある」ことが、再び確かめられました。
 あたしは同じ質問を、何度してきたことでしょう。
 
 ドクターはそれから、実際の患者さんの胸の写真をコンピューターのディスプレイに出して、たくさん見せてくれました。

 つづく。