形成のクリニックは、聖路加病院内にはありません。
これは品川から15分ぐらい、泉岳寺から1分ぐらいのところにあります。
このクリニックが聖路加とチームになっているのです。連絡が直で回ってきますからツーカーです。
聖路加で乳房切除術を受ける際についでにティシュー・エキスパンダーを大胸筋のところにいれてもらったあと、形成を続ける人はこのクリニックにバトンタッチするわけです。
月に一回、生理的食塩水をを入れて膨らませる通院と、このバッグ入れ替えの日帰り手術、乳首を形成する日帰り手術など、もろもろがこちらで行われるわけ。
バッグ入れ替え術を受けるその朝、まず、病室に入ります。そこでガイダンスを受ける。
アクセサリーは全部はずすこと、化粧は落とすこと、(あたしはしてきてない)紙のパンツに履き替える。(どっちが前でどっちが後ろや?というシロモノ)
ピンクのタオルのアッパッパーみたいなやつに着替えるんだけど、「お袖に腕は通さないで、胸のところで留めといてください」と言われる。
つまりね、首のゴムを胸の下のところに持っていって、肩は上からすべて出した状態です。
あまったお袖はおっぱいの上で、おばあさんのおっぱいのごとくにぶらぶらしているのね。
「カツラもはずすんですよね?」とウケ狙いで言ってみるが、あんまりウケない。「はい、はずしてください」だって。
今、毛流がしっちゃかめっちゃかで、モンチッチみたいな頭だけどな。ハゲではないのだ。
「これから先生にデザインしてもらいます」と告げられると、ドクターが颯爽と入ってきて、挨拶もそこそこに、マーカーペンみたいなやつでおっぱいにしるしを付け始めます。
こ、これが「デザイン」なのね・・・。
この世界のデザインは、おっぱいの皮膚に直接マーカーで描くんだわ。
すごい速さ。中心線を引いて、乳首の線を引っ張って、切り取るところを囲み・・・・その間絶え間なく説明します。
デザインは全部で1分かからんような感じ。
「ここ、乳首の皮膚が残っていますが、これは切り取ります。位置が違うのでいずれにしても使えませんから」
「はい」 それは前に聞いていました。
「バッグの方が少し位置が上になっていますから、バッグの下側を少しはがします。それが痛いかもしれません」
ひぇえええ。痛いのか。当たり前だけど。
「それでも入れ替えは新たにエキスパンダーを入れる場合よりずっと楽だと言われます」
そうだろうな。くっついてしまった組織をまたはがすのは大変だろう。
「まるっきり同じ、というわけには行かないけど、できうる限り、こちらと同じ大きさにします」
「はい、お願いします」
「それで、手術の間、何度か体を起こしてみたりしながら、やっぱりこっちのバッグがいいかとか、そういう調整をします」
「で。あたしに意識はない、と 」
「意識はありません」
そうなのか。意識のない、ふにゃふにゃのあたしを起こしてみて、おっぱいの位置なんかを良く確かめるんだ。
そりゃそうだよな。
寝てる時と、起きてるときは、おっぱいの形違うもん。
一瞬「フランケンシュタインの実験室」みたいな映像が頭に浮かびます。
モンチッチ頭のボディーを起こしてみて、様子を見るマッドサイエンティスト・・・・いや、違うって!
お着替えをするロッカーとベッドがついた回復室と、手術室は扉でつながっています。
その扉をごろごろっと開けると、そこには手術台があって、男の人が立っていました。「麻酔科の○○先生です」と紹介される。
このクリニックで男性を見たのはこれが初めて。
なんか新鮮。
狭い狭い手術台に乗ると、麻酔に関する問診表の細かいところを確かめられて、その後点滴で意識が遠のいていきます。
もう、その後は全然わかんない。
目が覚めると前の回復室に寝かされていた、というわけです