その病院には定期健診に来ている人や、わたしのようにセカンドオピニオンをもらいに来ている人がたくさんいるようでした。
施設は新しくて、すべてがぴかぴかして見えました。
あたしはその日最後の患者でした。
おそらく、お友達のお友達ってことで、そのドクターは時間を少し余計にかけても大丈夫なように、最後にしてくれていたのだと思います。
ありがたい話です。
ドクターは若くて、熱心さが肩のあたりからもあーっと立ち上っているような感じでした。
親切で暖かい性格であることがひと目でわかりました。
”友達の友達”であることから、少し世話話をしましたが、日本語がきちんと通じたので(通じない医者もいますんで)あたしはそれだけでもとても安心しました。
その日あたしはおっきな袋に、マンモグラフィや超音波やMRI画像や小さなプレパラート(針刺して取った細胞入り)、それに対する『クラス3』(悪性とも良性ともいえない)という検査の所見などなど資料一式つめて持って来ていました。
こういう資料は、見る人が変われば取れる情報もかわるんだ、診断する人の見る目が大事なんだって話を聞いた事があります。
しかしやっぱりまたマンモグラフィをとられました。
「撮り方によって見え方も違うので」と言われまして。そりゃそうですね。
またおっぱいをノシイカかのし餅みたいに(というのはかなり大げさですけども)板にはさんでうにーっと平らにするわけです。
「またやるんですか?」少しがっかりしてため息をつくと、レントゲン技師の人が「痛くていやですよね。でもすぐ済みますから」と言ってホントに手早くやってくれました。
何といいますか、押しつぶすスピードが速い!
そして痛い、と言おうと思うまもなくぴたっと止まり、はい撮りました、慣れてます、って感じでしたわ。
普通に撮るヤツのほか、しこりの部分を拡大して撮るやつもやりました。こっちは少し時間がかかりました。しこりに狙いを定めるわけです。
そんな技があるとは知りませんでした。
これは丸い透明なカップみたいなやつを押し付けてつぶしていきます。
「わー、こういうのは初めてだ」などとあたしは呆けて眺めていました。
初めてのことは何でも呆けてしまうのです。バカですな。
超音波エコーもやりました。
それで、ここでも驚いたのです。
「これって、機械の能力が違う!」
モニターに映った画像が、前の病院とは段違いに鮮明だったのです。
こんなんでお腹の赤ん坊見たら、パパに似てるかママに似てるかわかっちゃうかも・・・。(おおげさ)
おっぱいを診るエコーとお腹を診るエコーは機械が違うんだそうですけども。
マンモグラフィの写真もその場ですぐにあがってきて、この時点で、しこりが一つではなく、大小ふたつ並んでいるということがわかりました。
「ふたつあったんですか・・・・」ちょいとショックなニュースです。
「大きい方が1.7センチぐらい、小さい方は5ミリぐらいです。仮にガンだとしても、初期ガンの範囲ですね」とドクターは言いました。
”初期”ってところに希望がにおうけど。それにまだ悪性と決まったわけでもないけど。
ここで、ちゃんとした診断をつけるために、”もう少し太い針”を刺して組織を取る検査をしてもらうことにしました。
大きい方には太い針、新たに見つかった小さい方には細い針、でそれぞれ検体を取ってもらうことに相談が決まりました。
MRIは持っていった画像でいいってことにしてもらいました。
一万円前後かかるとても高価な検査だし、手術をする病院を決めたら、そこで改めて撮らないとならない決まりだからだそうです。
「お宅が遠いですからね。何度も来なくても済むように、組織を取るのは今日やってしまいましょう」
ドクターは超音波エコーの画面をのぞきながら、何度も位置を確かめ、非常に慎重に針の位置を決めていきます。
ああ、こんな風にやるものだったんだ。
やっぱりあの、椅子に座って体抑えられて目分量でちくっと刺すのはヘンだったんじゃん、と初めて理解します。
「前の病院ではなんか適当にしこりを狙って刺してたんですが」と言ってみます。
ドクターは「太い針の場合は肺に届いて穴を開けてしまう事故もあり得ますから、これは慎重にやるんです」などとおっしゃる。
ひえええええ。
前の病院で太い針までやらなくて正解だった。
細いところで止めておいてよかったわ。
それでも充分怖かったけどもさ。
検査で事故って・・・・ああ、でもそういうリスクだってゼロではないんだわ。
さしものあたしも緊張で少し固くなります。
太い針が打ち込まれる時はでっかい音がしました。
それからやっぱり若干でっかい穴が開きました。
そこにでっかいガーゼと絆創膏が当てられました。
ちょっと内出血でしばらく黒くなるかもしれませんと言われました。
こんな分厚いガーゼはブラジャーに収まるかしら?と少し心配になります。
というか、今日着てきたシャツのボタンが閉まらないのでは・・・?
しかし、そんなこと命にはかえられん!
あたしはその日、当てたガーゼと絆創膏と無理やりきついシャツのボタンのなかに隠して、帰路につきました。
検査結果を待たねばなりません。
つづく。